密告
とある営業所の所長が、飲酒運転で捕まって免許取り消しになった。罰金も何十万もきたが、幸い会社にはバレなかったので、取り消しになった後でも普通に自家用車に乗って出勤し、社用車でお客のところをまわったりしていた。
だが、この所長も考えが浅かったのか、一部の仲の良い社員には「免許取り消しになっちゃってさー。でも、誰にも言うなよ。」などということを話してしまっていた。だが「言うなよ」と口止めはしたが、あっという間に社員全員に水面下で広まってしまった。
ある日の朝、その所長がいつものように出勤しようと、家を出て、自家用車にエンジンをかけて、発進した・・と、その瞬間、物影から警察の人がわらわらっと出てきて、いきなり車を止められてしまった。
「あんた、無免許じゃないのか!」みたいな感じでいきなり警察に問い詰められてしまった。
家の前で警察が見張っていて、発進してすぐに「無免許じゃないのか」と言って捕まるなんて、こんな展開は偶然ではあり得ない。誰かが警察に言った以外には考えられない。取り消しのことを知っていたのは会社の人間だけ。激怒した所長は、せめて密告した犯人を突き止めて怒鳴り散らしてやろうと、犯人探しをしてみたが、全く見当がつかない。
「全く見当がつかない」、というのは「そんな密告をするような人間が社内にいるとは考えられない。」というのではなくて、犯人候補が多すぎて見当がつかないのだ。
今回は警察から会社の方に連絡がいってしまった。幸いクビにはならなかったが、その所長は雑用係のようなところに配置換えとなり、そこでしばらく勤務していたが、結局自分から会社を辞めてしまった。
辞めてから分かったことであるが、やはりある部下が、あの時警察に通報したのは、自分の犯行であるかのようなことを、ごく一部の親しい人たちにほのめかしていたという。
人間関係がよくないと、ある日こういう手段で報復に出ることもある、ということだろうか。一本の電話で一人の人間の人生が変わることもある。でも結局一番悪いのは、最初に飲酒運転をした本人ではあるが。