歌が好き

自分が随分昔にいた会社。そこの会社の同僚7-8人で飲みに行ったことがある。その中に60代の女性でA子さんという人がいた。
 
飲み屋に着くと、A子さんが「私、歌ってもいいかな?」と言うので、みんな「どうぞ」と言うと、A子さんはバッグの中から手帳を取り出し、パラパラとめくり始めた。
 
たまたま自分は近くにいたので、ちょっと手帳を見てみると、中には手書きで曲名とカラオケの入力番号がびっしり書いてある。それも何ページにも渡って。
 
「これ、自分のレパートリーですか?」と聞くと「そうよ。」と言う。聞けば100曲以上あるらしい。しかもカラオケの機械のメーカーごとに番号が書いてあった。得意中の得意である数曲は番号を覚えているという。
 
歌本はもちろん必要なく、その手帳を見ながら、後はA子さんの独壇場だった。
 
それでしばらくしたある日、A子さんと、職場の同僚であるB子さんが一緒に買い物に出かけたことがあった。この時は、A子さんが車でB子さんの家まで迎えに来てくれた。
 
B子さんが車に乗るとA子さんはすぐに「音楽かけてもいい?」と言うのでB子さんも「どうぞ。」と言うと、カセットテープを取り出して(これはまだカセットの時代の話なので)コンポに入れた。
 
流れて来たのはA子さんの歌声だった。
 
あちこちのカラオケボックスや飲み屋で歌った自分の歌を録音し、それを編集して一本のカセットにまとめていたのだ。
 
これがまた何曲もあって長い。百貨店に着くまでの20分間では終わらなかった。ちなみに帰りも続きを聞かされた。
 
B子さんを家まで送った時、A子さんはカセットを取り出してB子さんに
 
「これ、あげる。家で聞いてね!」
 
とカセットを渡した。
 
(は?そんなもんいらないわよ)なんて言えるわけがないので
 
「あ・・でもこれ、大事なものでしょうから、私がもらったら悪いですから・・。」
 
と暗に断ったのだが、
 
「大丈夫よ!何本も作ったから!」
 
と切り返されたので、しようがなく「ありがとう、聞かせてもらいます。」と受け取ってしまった。
 
B子さんも、明日職場で会って感想を聞かれたり、話題に振られたりしても困るので、しょうがないから全部聞いたという。
 
超迷惑。
 
カラオケの好きな人って、こういうのが普通なんでしょうか?いや、他にもカラオケ教室に通ってるという人は何人か知ってますが、ここまで聞かせたがりで曲の手帳まで持ってる人はこの人だけでした。

1 / 11
サブコンテンツ

このページの先頭へ