ホームレスを雇うと
自分の親しい人で、都会の方で、舞台のセッティングなどの仕事をしている人がいる。コンサートや芝居などのために、舞台セットを組むのが主な仕事。
彼は経営者なので、それぞれの現場のために、事前に日雇いのアルバイトを募集する。大工仕事のような専門的なことは社員がやるので、バイトにやってもらいたいのは荷物運びである。
先の方までスケジュールが詰まっているし、それぞれの現場で次々人員を確保しておかなければならないので、バイトの募集をかけても、いちいち面接する時間は割(さ)いていられないから、電話で応募して来た順に採用する。一日限りのバイトだし、荷物運びなので、履歴書の提出も求めない。
だから応募して来た人と、初めて顔を会わせるのは、いつも当日の朝である。
だいたいどこかの駅を集合場所として時間を伝えて、バイトに集合してもらうのだが、大抵、その中の数人にホームレスが混じっているという。
もちろん本人が自分から言うわけではないが、彼によると、「ホームレスは見たら分かる」のだと言う。
多分、髪とかヒゲが伸び放題とか、服が汚いとか、大きなキャリーバッグを持ったまま来るとか、そういう感じなのではないかと思う。
全員そろったのを確認して、彼が現場の場所を地図を見せながら説明し、バイトたちに
「それじゃ皆さん、電車で現場まで移動して下さーい。」と言って、電車賃を300円ずつを支給する。
それで現場に着いたら、1人か2人いなくなっている。いなくなってるのは「ホームレスらしき人」。
彼が分析するに、「1日働いて六千円とか七千円もらうより、行っただけで300円もらって帰った方がいいという考え方をしてやがる。ものすごいいい加減な奴らや。」
と言っていた。
また、別の日の仕事では、昼休みになってホームレスらしきバイトと一緒にコンビニに弁当を買いに行ったら、そのホームレスがそこで万引きして店員につかまり、彼が代わりに謝った。
更に別の日の現場では、会社からバイトに弁当を支給したのだが、昼休憩が終わったら、まだバイトが1人か2人いなくなっている。
昼からも面倒くさい仕事をして金をもらうより、タダで昼飯が食えたので、それで目的が果たせたから勝手に帰ったらしい。
こういう、会社から弁当を支給する日が一番危ないらしい。昼から何人かいなくなっている。
彼もバイトを募集する時、それぞれの現場の規模と、搬入機材の量を考慮して、10人集めればやれると思ったら10人だけ募集する。13人も14人も募集したりはしない。
なので、勝手にいなくなると非常に困る。時には依頼主から
「何人かいなくなったじゃないでしょう。時間までにこれ、出来るの?大体なんでそんなの連れてくるの。」
と嫌味を言われることが何回もあった。
彼に言わせると「ホームレスの奴らは人間のクズ」なのだそうだ。家がないという点ではなく、仕事に対していい加減な奴があまりにも多いとか。
ホームレスで日雇いのバイトをしている人は多くいるが、中には真面目に一生懸命働く人もたくさんいると思うのだが、それは自分の机上での考え。
彼の場合、実際にそういう人を雇って、自分の経験上からこういうセリフを言うので、説得力はある。
しかし人間、家がないとそうなってしまうんだろうか。
バイトの雇用形態からして、彼は今後もホームレスを雇い続けるし、この先何回も同じ目に会うだろう。ボロクソに言いながらも、何もしない一般人よりは、彼のほうがよほどホームレスの生活を助けていることにはなる。