豪快な手抜き業務
自分は20年くらい昔、玄関マットの会社で働いていたことがある。
玄関マットと言えばダ〇キン(ダス〇ン)が有名であるが、そこではなくて、似たような会社であった。
主な業務内容は、契約している店や会社を車でまわってマットやモップを新品と交換する仕事である。一日に訪問するお客の軒数はだいたい40軒から60軒くらい。
もちろんその中には、デパートとか病院とかパチンコ屋など、あちこちに何十枚もマットが敷き詰めてあって、全部交換するのに1時間以上かかるような大口のお客も含まれている。
自分がいた営業所は10人程度の小さなものだったが、その中になかなか豪快なことをする社員がいた。例えば、その彼が担当しているパチンコ屋では、全部のマットを交換しようと思ったら1時間以上かかる。
しかし彼はそういうめんどくさい手間を一気に解決する手段を編み出していた。その手段というのは、彼はパチンコ屋に着くとすぐに伝票を持ってカウンタに行き、
「こんにちはーっ。お世話になります、〇〇でーす。マットの交換に伺ったのですが、サインいただいてよろしいでしょうか?」と、言って伝票にサインだけもらって帰る。
もちろんマットの交換なんぞ全く行っていない。行っていないと言うよりも、最初っからそのパチンコ屋のマットなんて持って来ていない。サインさえもらえれば後日請求書を発送出来るのだから、サインをもらうことが重要なのだ。
他の社員もおかしいとは前々から思っていたらしい。伝票の量のわりには随分と車に積んで出るマットの量が少ないのだから。
この方法は、他のデパートや他のパチンコ屋でもやっていたらしく、いくらマットが足元にあるもので視界に入りにくいものとはいえ、一ヶ月も二ヶ月も放っておくと、さすがに真っ黒になってくるから店の方にも気づかれる。
しばらく経って、あちこちから
「なんかマットを変えてる形跡がないんだが・・。」とか
「ホンマに替えとんか?!どーなっとんや!」
という苦情の電話もかかり始めた。所長が彼に問いただしてみると
「あぁ・・替えてなかったっす。」
と爽やかに犯行を認めた。
お客によっては激しく怒るところもあって・・それはもちろん、今まで金だけ払わされて、だまされていたのだから、当然と言えば当然であるが、所長以下、何人かで謝りに行って土下座したところもあったという。更に土下座した上に、全館のトイレ掃除をさせられたところもあった。
一方彼の方はと言えば次長に顔面をブチ殴られてクビになってしまった。なかなか面白い人ではあったが、ちょっと残念であった。