出戻り社員と、それを再び受け入れる会社

二県内に5つほど支店がある、とある会社は、今でこそかなりマシにはなったが、元来とっても社員の定着率が悪い。一年続いたら長い部類に入る。

昔のことを言うと10年くらい前は、新入社員を5人入れても一年後には一人残るか残らないかという状態が普通で、当時どこの支店も支店長が二十歳で社員が18か19というのが当たり前だった。

なんでこんなに人が辞めていくかといえば、やはり過激なノルマと一日16時間勤務、それに加えて鬼のように怒鳴り散らす役員連中の功績が大きいと言えよう。

その中である支店は、あまりにも人が辞めていくので、支店長がちょくちょく社員を職安(職業安定所)の前に配置させて、職安から出てくる男を勧誘させていた時代もあった。

「ねーねー君、仕事探してるの? い~い仕事があるんだよ! ちょっとウチの会社に面接受けに来ない?」と言って誘っても、「な、なんですか、あなた方は!僕はきちんとした会社を探してるんです!」と言って断られるパターンがほとんどだったらしいが。

やはり職安の前で待ち伏せして、性風俗の客引きのように新入社員を勧誘しているところなど、きちんとした会社ではないのか。一応、業務はまともなんだが。

そうした中にあって、ある日、全支店5つのうちの3つの支店の支店長がいきなり本部に「辞める」と連絡してきた。別に人が辞めるのは珍しいことではないが、支店長が3人一緒に辞めるというのは極めて珍しいケースだ。

驚いた部長や専務がその3人を呼んで話を聞いてみると理由は

「疲れました」とか
「このまま続けていく自信がありません。」とか
ありきたりの返事で、どうも的を得ない。

なんとか説得して、「この金で3人でどこか旅行でも行って、ゆっくり考え直せや。」という感じで何十万か渡して一週間ほど休みを与えた。

旅行を満喫して金も使い切って帰ってきた3人は、引き留めなんぞには全く応じず速攻で退職願を出し、あっさりと辞めていった。血も涙もなし。

後で分かったことだが、結局よその会社の引き抜きにあったらしい。事実を知ったお偉いさんは激怒したが、もう遅い。結局この件はこれで終わった。

そしてそれから一年後、こんどはその3人から打診があり、なんと再びこの会社に戻ってきたいとのこと。一年前、ああいう感じで辞められた方としては普通入れないと思うのだが、そこは慢性人手不足に悩む会社。あっさりOKし、両手をあげて歓迎した。

ちなみに3人の中の1人はこれが3回目の入社になる。入って辞めて、また入ってきてまた辞めて、更にまた入ってきた。あまりにも人が不足しているとお互いプライドとかいうものには無縁になるのだろうか。

世間はリストラで人を減らしている会社もあるというのに、この会社は人手が足らないとは景気のいい話ではある。でもこれって景気がいいと言うのか?

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