更衣室での屁
Aさんという、自分の昔の知り合いが以前言っていた。
当時Aさんは、あるトレーニングジムに通っていた。ある日のこと、いつものようにトレーニングを終えたAさんは、家に帰ろうと、更衣室で着替えをしていた。
着替えているのは、Aさんの他に、もう一人いた。顔は何度も見たことがあるが、話をしたことはない男だった。
その、もう一人の彼も、トレーニングを終えて、これから帰るようだった。先に着替え終わったのは、その、もう一人の彼の方だった。
「お先に失礼します。」と挨拶をして彼が出て行く。だが、その男は、更衣室のドアを開ける直前、「ぶううう!」と、一発、豪快な屁を放った。
そしてすぐに更衣室を出て行き、パタンとドアを閉めた。この屁がまた、強烈に臭かった。ここの更衣室は狭い。においが充満しているようだった。
「うわぁっ!何や、あいつ、非常識な!」
Aさんが不快感を感じていると、ちょうど入れ替わりのように、別の会員が入ってきた。この男も見たことはあるが、話をしたことはない。だがその男は、入って来たとたん、一瞬顔をピクッとさせ、いやーな顔して、チラッとAさんの方を見た。
彼ももろに、においを感じたようだった。疑われているのがはっきり分かる。Aさんも心の中で
「俺じゃない!俺がやったんじゃない!」と叫んでいた。
その彼は特にAさんに対して何も言わない。何も言われてないのにAさん方から
「すいません。屁をしたのは僕じゃないんですよ。」
と話しかけるのも何か言いにくくて、結局Aさんは何も言わず、あわてて更衣室を後にした。急いで出たことが一層疑惑を加速させた。
「あの男、今度見かけたら文句言ってやる!」と、Aさんは一瞬思ったが、大の大人が
「あんた、この間更衣室で屁をしたろう!」とつっかかって行っては、今度はこっちが馬鹿のように思われる。
結局弁明も出来ず、文句も言えず、こういう細かいことは、このままにしておくしかなかった。密室での屁は、こういう形で人に迷惑をかけることもある。