会社での盗難

ある外回りの営業会社の社員が、会社の休憩室で、その日集めてきた集金の計算をしていた。いろんな店を回って集金してくるのだが、後半、一万円札をやたら出されたので、ピッタリの金を会社に提出しようとしても、千円札が足りない。
 
自分の財布を見てみたが、一万円札が二枚入っているだけ。しょうがないから事務所で両替してもらうことにした。その時、集金袋は持って出たが、財布は机の上に置きっぱなしで事務所に向かった。
 
両替から帰って金を合わせて、余った札を自分の財布に入れておこうと、財布を開けてびっくり。二枚あった万札が消えていた。あのわずかな時間に、誰かに中身だけ抜き取られたようだ。
 
犯人は誰なのか皆目見当がつかない。相当頭にきたが、このことはすぐに部長に報告した。
 
そして翌日、会社の掲示板にこういう張り紙がされた。
 
「先日社内で、明らかに社員の手による盗難事件が起きました。今回は会社側が全額を弁償しますが、今後このようなことがあった場合には、連帯責任として、社員全員の給料から弁償させることとします。」
 
この会社では、過去にも「連帯責任として、社員全員の給料から弁償させることとします。」という張り紙がされたことが何回かあるが、本当に給料から引かれたことは一度もない。
 
要するにただの脅しなので、みんなそのことを良く知っているから、そこの部分は無視して、注目が集まったのは
 
「今回は会社側が全額を弁償しますが」の部分。
 
張り紙がされた時点で何があったのかはすでに全員の間に広まっており、二万円盗られたと報告した社員が二万円もらえることだということがすぐに分かった。
 
間もなくして別の社員が
「自分も以前、車内で二万五千円がなくなったことがあるんですが、あれも弁償してもらえるんですか。」
と事務所に言ってきた。
 
それから次々と
「去年、一万八千円がなくなりましたが、弁償してもらえると聞いたんですけど。」
「引き出しに入れてた腕時計がなくなったことがあるんですが、同じものを買ってもらえるんですか。」
「自家用車が誰かにぶつけられて、バンパーがへんこだままになってるんですが、あれも直してもらえますか。」
 
など、「本当だったらなぜその時に言わなかったのか」という疑惑の自己申告が10件以上も事務所に来た。最初は一人一人じっくり話を聞いていた部長も、あまり次々くるもんだから
「お前ら、ええ加減にせえやー!」
と怒鳴って途中から追い返した。
 
結局、便乗しようとした人間は全部却下された。最初の事件の犯人は分からないままである。

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