海外旅行で迷子になった時

主婦のA子さんは、ツアーでアメリカへ海外旅行に来ていた。ある観光地で、あちこち店を覗いたり、ちょっと離れたところを見に行ったりしてた時、ふと気がつくと、自分のいた集団がいつの間にかいなくなっていることに気づいた。
集団から、はぐれてしまったのだ。
 
A子さんは英語がほとんど出来ないので、焦って小走りで添乗員さんや、自分のいた日本人の集団を探し始めたが、探してる方向が違うのか、全く見当たらない。
 
「こっちに行ったんじゃなくて、あっちかも。」
 
そう思って引き返そうとしていた時、何十メートルか先に、日本人らしき一人の女性を見つけた。その女性もきょろきょろあちこちを見ながら小走りに走っていた。
 
見るからに、自分と同じように迷子になっている感じだった。
 
迷子仲間を見つけたような気がして、A子さんは、その女性に近づいて
 
「あの・・。」
 
と話しかけた時、「あっ!」と、お互いがびっくりした。
 
その女性は日本でA子さんの家の近所に住んでいる、「B子さん」だった。
 
何年か前に大ゲンカをして、それから一切口をきいてない、お互いに憎しみ合っている、A子さんが世界中で一番嫌いな女だった。
 
B子さんも、偶然、別の会社のツアーに参加して、アメリカに旅行に来ていたのだ。しかもここ同じ観光地で、その上A子さんと同じく、迷子になっているようだった。
 
「何でアンタがここにいんのよ!」
 
「私がどこに来ようがアンタにゃ関係ないでしょ! アンタ、どーせ迷子になって焦って探してたんでしょーが、バーカ。」
 
「アンタだって迷子になってるんでしょーが!」
 
という感じで軽く挨拶を交わした。
 
言葉の分からない外国で迷子になって困っていたら、そこでばったりと出会った日本人は、よりによって、自分が一番嫌いな奴だったとは、まさに超偶然。
 
結局2人とも、また一人になるのが怖いので、しょうがないからお互いに協力し合って、単語の英語と身振り手振りで、何とか自分のいた集団に戻ることが出来た。
 
これがきっかけで、日本に帰ってきてから2人の仲が復活したのかと思ったら、やっぱりまた絶交状態に入った。
 
嫌いな奴はやっぱり嫌いなので、少々のことでは人間関係は元に戻らないらしい。

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