営業成績トップの男が実績を上げていたカラクリ
ある営業会社に勤務するAさんは、毎月かなり業績が良い。一見厳しすぎるとさえ思われる販売目標を、毎月達成している。
月初めになるといつも支店長が「先月も目標を達成したのはAさんだけ!他の者もAさんを見習ってもっと奮起するように!」と、朝礼で言うのが恒例行事のようなものだった。
当然Aさんも、業績というバックを背負って社内での態度もそれ相応、部下に対するものの言い方も結構高圧的だったが、数字が全てのこの会社において誰もそれに対してどうこう言うことは出来なかった。
そんなある日、お客のところをまわってAさんが集金してきたはずの現金が、会社に帰ってみると13万円足りないという事態が発生した。
3枚綴りの伝票で、現金と引き替えにお客に渡すべき領収書の部分はちぎられていたので、お客からいったん現金を受け取ったことは間違いない。
Aさんに聞いてみると、どこかで落としました、と言う。Aさんがこれまでに、集金の金が何万も足りない、ということは何回かあったし、そのたびに「どこかに置き忘れてきました」とか「落としました」と言い訳をしてきた。
今までにもこういうことがあったので、今回に限って支店長が問いつめてみると、「実は・・サラ金の金利が払えなくなったので、集金の金をそっちにまわしました。」と自白した。
Aさんはあちこちのサラ金に全部で200万以上の借金があるらしい。
なぜそんなに借金を作ったのかを更に問いただしてみると・・・要するに自分の販売目標を達成するために、毎月サラ金から何万円かを借りては、あたかも商品を販売したかのように伝票を書いて、その金を会社に入れていたらしい。
要するに架空売り上げというヤツだ。まともにやっては到底目標を達成することは出来ないので、足りない売り上げを自分で払っていたのである。
借りていた金額は、毎月平均9万から10万円。これを約二年間に渡ってやっていたらしい。総額で二百数十万、金利だけで毎月13万にものぼる。二百数十万で金利が13万とは随分と高い気がするが、これはひょっとして「ヤミ金」というやつだろうか?
あちこちで借りまくっていたのだが、ほとんど返してなかったせいか(どこの会社でいくら借りていくら返しているとか、そういうデータは各金融会社間で分かるらしい)、ついにどこも借りれるところがなくなって会社の金で今月の金利を返済するようになったらしい。
「毎月、一人だけ目標達成」の秘密もバレて、これまでの評価も地に落ちた。社内でも誰も話しかけないし、Aさん自身も喋ることはない。このサラ金のことは奥さんにも内緒でやっていたというから、家の金でまともに返済することも出来ない。
Aさんは二ヶ月前に親子二世代ローンで家を建てたばかり。更にその時期に合わせて二人目の子供も生まれ、これから金がかかることばかりである。果たしてこれからどうなっていくのかは分からないが、会社の金を横領していたということで、おそらく解雇は免れまい。
業績・業績と追いつめられることはよくあることだし、販売職なら多少は自分で払うのは普通ではあるが、この場合は度が過ぎている。
彼にとっては、「先月も目標を達成したのはAさんだけ!」という言葉がそれほどまでに大事だったんだろうか。