絶対売って来い。過酷な営業イベント。
このブログでも、昔勤めていた営業会社のことを時々書いていますが、この話もその一つです。
以前所属していた会社は清掃用品や空気清浄機、芳香剤などのレンタルを行う会社でした。
契約しているところを回って商品を交換したりメンテナンスするのも業務なのですが、営業成績が問われるのは飛び込み営業でどれだけの新規の契約を取ってきたか、どれだけのものを売ってきたかということになります。
商売はもちろん相手あってのことなので、毎月同じことをしていれば毎月同じ数字になるということはありません。良くなったり悪くなったりします。
県内に8カ所あるその会社の営業所は、ある月、全ての営業所がずいぶんと成績が悪く、売り上げが落ち込んだ月がありました。
どの営業所もその月の予算を達成できそうにありません。そうした時、この会社は「全体営業」というイベントをよく行っていました。
8箇所の営業員約150人が1つの地域に集められ、飛び込み営業で会社や商店にいきなり訪問し、うちの商品を買ってもらえませんかと交渉して売ってくるイベントです。
過去の実績から言っても1日で結構な売り上げが上がるので、会社としても切り札のようなイベントでした。ただ、やらされる方としては相当な重圧がかかります。
そしてやはりこの月の最終日に、またもや全体営業が行われることとなりました。
もちろん自分も当時は社員だったので参加です。これは当時の冬用の制服姿です。
この日の商品は一番売りやすいと考えられるトイレットペーパーが選ばれました。1ケース4000円のトイレットペーパーを、どこでもいいから販売してこいと言います。
当時扱っていたのはこちらの業務用トイレットペーパー「コアレス」です。
現在でも1ケース4980円でアマゾンなどで売られていますが、当時は1ケース4000円でした。
芯なしタイプで中心に厚紙の芯がなく、ぎっしりと巻かれています。
薄い紙でぎゅうぎゅうに巻かれているので一個で相当長持ちします。駅やパチンコ屋などでよく使われている業務用トイレットペーパーです。
この日の陣頭指揮はいつものように本部長が取りました。全社員が、まずは駐車場に整列させられ、管理職たちの話を聞きます。
本部長が激を飛ばします。
「ええか、今日はチームプレイじゃ! 3人一組で車に乗って出発せい。ノルマは3人で3ケースじゃ!
自分が1ケース売ったからといって終わりやないぞ。あくまでチームで3ケースが目標じゃ。達成したチームから、もう家に帰ってよし!
ダメだった者も、5時にはここへ帰って来い!分かったら行けーい!」
各社員がそれぞれ車にトイレットペーパーを3ケースずつ積み込んで一斉に出発します。範囲も限定されています。
出発した各チームは適当な所へ車を止めて、それぞれバラけて、歩ける範囲にある店や会社を次々と訪問して交渉に当たっていきます。買ってもいいよ、という店を見つけたらスキップしながら車まで商品を取りに帰って来ます。
ダメだったらまた車に乗り込んで別の場所でやってみます。
しかし決められた範囲で、150人もの社員があちこち訪問していくわけですから、当然、2人も3人も重複して訪問される店も出てきます。
後で分かったことですが、この時は、最高で一日のうちに7人の営業員が訪問したパチンコ屋がありました。
なぜパチンコ屋なのかというと、やはり羽振りがいい、買ってくれそうな気がするという印象があるから、いろんな営業員が狙っていくのです。
入れ替わり立ち代わり何人も訪問すると、だいたいこんな感じになります。ここからはそのパチンコ屋の話です。
まず、そのパチンコ屋に、ほとんど開店と同時に最初の一人が訪れます。店員に声をかけ、店長さんまで案内してもらって、名刺を渡して交渉を始めます。
しかし「うちはいつも注文する会社が決まっててね。1ケースといっても、よそから買うわけにはいかんねえ。いつも持って来てくれてる担当の人を裏切るみたいで、いい気持ちはしないし。それにまだ在庫がいっぱいあるからね。まあ、そういうわけで悪いんだけど、今回は見送らせてもらうよ。」
と言ってやんわりと断られてしまいます。
少し時間をおいて別の社員がまた同じように訪問して、同じことを言います。もちろん、これ以降の彼らは自分の前に他の社員が訪問済みであることなどは知りません。
店長は
「さっきもお宅の会社の人が来たよ。うちはいつも注文する会社が決まっててね。・・・・」
と同じ説明をします。
また少し時間をおいて3人目が来ます。
「またお宅の会社? 今日は何かやってんの?よく来るね。前の人たちにも言ったんだけど・・。」
4人目が来ました。
「しつこいね、あんたの所も。さっきからお宅の会社ばっかり。あんたで4人目だよ、4人目!」
店長もイライラし始めました。
5人目が来ました。
「あんたらは一体何回来たら気が済むんや! さっきから別々の人間が入れ替わり立ち替わり! いらんと言っとるだろーがっ!!」
ついに怒り出します。
6人目が来ました。
店長を前にした社員が「こんにちはー、お世話になりますぅ。」と言った途端、
「えー加減にせえやーーっっ!! お前らは店に入って来るなーーっっ!!」とすごい形相で怒鳴られました。
7人目です。
「こんにちはー、おせ『わりゃ、何しに来たんじゃーーっっ!!!』わになりますぅ・・・・。」「ブチ殺すど、コラァッ!!」
「す、すいません、何でもないですっ。」
とにかく謝って、その社員は逃げるようにそのパチンコ屋を後にしました。
挨拶したら「ブチ殺す」と言われました。まだ、何にもしゃべってないのに。
その社員も全体営業の経験が何度もあったので、すぐに理解出来ました。
「ここは俺で何人目だったんや?」と。
5時になって、各社員が続々と引き上げて来ました。会社に帰って来ること自体、目標を達成出来なかったということです。チームによってかなりの差が出来ていました。
・午前中に3ケース売り切ってすでに帰ったチーム。
・2ケースまでは売れたが、最後が売れずに時間切れとなったので、3人で金を出しあって1ケース自分たちで買って中身のトイレットペーパーを分けたチーム。
・一つも売れずに、3人で金を出しあって自分たちで買って、せめて1つは売れたという形に持って行ったチーム。
・全員金がないので、ものすごく嫌だったが、結局0(ゼロ)で帰って来たチーム。
です。
ちなみに自分(吉田)は、何回も全体営業には参加しましたが、すべての回で目標は達成できました。
目標を達成出来なかったチームは、本部長から
「なんで売れんかったんか、その理由を言え!!オラ! お前からじゃ!!」」
と一人一人、みんなの前で理由を言わされます。懸命にやりました、別に理由などありません。ただ謝るだけです。本部長から散々怒られた後、やっと全体営業は終了します。
「来月も売り上げ悪かったら、また、これやらされるんだろうな・・。」残っていた者は全員同じことを考えながら帰途につきました。
それからこの下の画像はその当時、所長や上司、及び全体集会で専務が怒鳴り散らしていた言葉を思いつく限り文章化してみたものです。
別にこういった張り紙がしてあったわけではありませんが、当時の営業の心得です。
この会社にいた時には朝の6時半に家を出て、帰ってくるのは夜の1時頃でした。休みは日曜日と祝日だけで手取りは14万円です。社員の平均寿命は5年と言われていました。一応自分の寿命も5年でした。
その他の当時の会社の記事です。
営業会社の会議。売り上げを伸ばす良い方法。
これは別の営業会社にいた時のことです。
名札のシール